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第2章 明くる日


周りで話す声がして目が覚めた。
ネットカフェで眠る事に慣れていた私にとって、人の声で目が覚めるなんて違和感しかない。

でも、それは現実で。

硬い横にもなれないような椅子じゃなくて、柔らかい絨毯の上にいた。

「……さん。黒尾さん。」
「…あ、赤葦。…はよ。っ!ぶっ!」

聞こえる声も、やっぱり現実。
大きな笑い声も聞こえる。
完全に覚醒して体を起こすと近くで赤葦さんと黒尾さんが話していた。

「人の顔に何してるんですか。」
「…いや、待て。これは深い訳が!」
「…黒尾さん。何か言う事は?」
「…酔って調子にノリマシタ。すみません。」

人でも殺すんじゃないかと思える程の威圧感を漂わせる赤葦さんに黒尾さんが謝っている。
落書きを咎められているのは分かった。

本来なら言い出したのは私で、一緒に怒られるべきだろうけど、助けるのも面倒だ。
油性を持ち出したのも顔に書いたのも黒尾さんだし、火の粉が飛んで来るまでは黙っていよう。

「…俺、午前からバイトあるんスけど。」

謝罪の言葉に一応は怒りを鎮静化させようと努力しているらしいが、落書きが消えない事には許せないようで、黒尾さんをずっと睨んでいる。

静かに膝立ちで移動して自分の荷物に近付いた。
中身を漁り、化粧ポーチから口紅を取り出す。

「赤葦さん、どうぞ。」

「…今、冗談を受け流す余裕はないけど。」

二人の元に戻って手に持ったものを差し出すと、私に向いたのは恐ろしいくらいの視線。
言葉が足りなかったようだ。
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