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十四郎の恋愛白書 1

第1章 No. 1




「いらっしゃいませ、土方さん」

テーブルを拭いていたゆきが振り返ってニコリと笑う。

「おう、いつもの頼む」
「はい、お待ち下さい」

いつものカウンターに座るオレに水を出すと、ゆきはマヨネーズを作り始めた。
シャカシャカとボウルを掻き混ぜる音をバックに会話する。
昨日の見回りの時に見た、全身タイツの天人の家族のことや、原田のハゲのこと、近藤さんの失恋話。
ゆきも、スーパーで見たカゴ一杯にアンパンを詰めていた男性や、看板で会話するデカいオバQの話をなんかを話して、楽しそうに笑っていた。

「ゆきちゃん、もうお客さんもあまり来ない時間だし、良かったら土方さんと一緒に座って、賄いを食べちゃったら?」

おばちゃんが洗い場から顔を覗かせた。

「え、いいんですか?」
「いいのいいの。土方さんも1人で食べるより、誰かと食べた方が美味しく感じるだろうし」

そう言っておばちゃんはゆきの賄い料理を準備し始める。

「はいよ、ここに置いとくからね」
「ありがとうございます。ではお先にいただきます」

おばちゃんが再び奥に下がると、ゆきはオレの前にこんもりも盛られた土方スペシャルを「お待たせしました」とにこやかに置いた。

「土方さん、私、お隣にお邪魔してもいいですか?」

おばちゃんはオレの横の席に賄いを置いていっていた。

「おう、一緒に食おうぜ」
「ハイ。ありがとうございます。いただきます」

そう嬉しそうに言ってゆきは三角巾と割烹着をはずすと、オレの横の席に座った。
ふわりと優しい香りが漂う。

この日はいつもより沢山、ゆきと話すことができた。



いつしかオレは彼女の休憩時間に合わせるように店に行き、賄いを食べる彼女と並んで座るようになっていた。

さほど時間がかからず、お互いの事を「ゆき」「トシさん」と呼び合うようになった。

オレは彼女といる間、自分の心がとても穏やかなことに気がついた。そして、あまり笑わないオレが、ゆきの前ではいつも笑っていた。

ゆきの笑顔に癒されていた。
ゆきは大事な、女友達だと思っていた。

あの銀髪ヤローがゆきの隣を歩くまでは…。

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