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十四郎の恋愛白書 1

第14章 No.14


源外のところで体が元に戻り、ゆきは翌日、荷物を纏めて屯所を出ることになった。

「お世話になりました」

門の前でゆきは深々と頭を下げる。
広い庭は見送りに出た黒服の男達や女中でひしめき合っていた。

「ゆきちゃんがいなくなると寂しくなるなぁ。このまま女中として働いてくれればいいのに」

近藤さんが目を潤ませながら名残惜しむ。

「近藤さん、ありがとうございます。でもお世話になった定食屋さんの女将さんに戻る約束をしていますので」

ゆきも寂しそうに微笑んだ。
そこへ女中のおばちゃんや隊士たちが押し寄せてゆきとの別れを惜しんだ。

「ゆきさん、今までありがとうございました!」
「ゆきちゃん、元気でね」
「ゆきちゃん、何かあったらいつでも相談に来るのよ!」
「ゆきさん!」
「ゆきちゃん!」

ゆきは涙を流しながらそれらに応える。
ゆきを囲むその輪は大きく、彼女の人望そのものを現しているようだった。

「いつでも戻ってきてくだせぇ。給料は土方さんの分から差し引いて上乗せしやすんで」

最後に総悟がゆきの手をそっと両手で握りながら言う。

「総悟くん…。今まで色々ありがとう」

ゆきも総悟の手をギュッと握り返した。

「おい総悟、勝手なこと言うな。そして気安くゆきに触るな」

オレは総悟の手を払い除けるとゆきの肩を抱く。
総悟の小さい舌打ちが聞こえたが、ゆきの肩を抱いたまま牽制するようにぐるっと隊士達を見渡した。女中のおばちゃん達がニヤニヤとこちらを見ている。

「んじゃ、送って行ってくるから」

不満げな隊士達にそう言い置いてゆきの背中を押して歩き出そうとした時、突然背後で近藤さんの大声が響いた。

「全隊士、整列ー‼︎」

何事かと振り返ると、目の前で黒服の男達が一斉に10列に並んだ。

しん、、と静まった屯所内。そこに再び響く近藤さんの一声。

「井上ゆき殿に、敬礼ー‼︎」

ザッ!!

100人以上の真選組隊士達が見事に揃えて敬礼した。

「!」

近藤さんの目配せにその意図を理解する。それに応え、オレも中央に立つ近藤さんの横に並んでゆきに向かい敬礼した。
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