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十四郎の恋愛白書 1

第1章 No. 1


未だかつて、手作りのマヨネーズなんて、食べたことがない。いや、マヨネーズを手作りするという発想がなかった。
作ってくれる相手もいなかったし、自分で作るなんて以ての外だ。

「あ…、じゃあ、それで」

手作りという甘美な響きの誘惑に負けたオレが注文すると、おばちゃんは、はいよ、とニコリと笑ってまた洗い場へと下がる。

手作りのマヨネーズ…。未知の世界だ。一体どんなものが出てくるのか。
いやでも、流石にキュービーのマヨネーズには及ばないだろう。なんてったって、あれは一流食品会社が研究に研究を重ねて生み出した傑作品で…。

つらつらと考えていると、やがて目の前に丼が置かれた。

「はい、お待ちどお様」
「…おう」

燦然と輝くクリーム色が丼に山になって乗っている。
見た目はマヨネーズだ。手作りだからか、細くトグロを巻いておらず、おたまですくって掛けたのだろう、ぼってりとこんもりと、白米を隠していて。

すん、と匂いを嗅いでみる。

うん、マヨネーズの匂いだ。

箸で少しすくって舐めてみる。

「‼︎」

瞬間、丼を持ち上げ、口に掻き込んだ。

うまい、うまい!

「おばちゃん、コレ、メチャクチャうまい‼︎」

このコクのある深い味わい、滑らかな舌触り、飲み込んだ後の上品なマヨネーズの香りが、スッと鼻に抜ける。

キュービーのマヨネーズより、全然うめぇ‼︎

ガツガツと食べ終わり、手作りマヨネーズの偉大さに感動しながらタバコに火をつける。

「おばちゃん、こんなにうめぇマヨネーズ作れるなら、なんで今まで出してくれなかったんだよ!」
「あら、そんなに美味かったかい。でもこれは私が作ってるんじゃないんだよ」
「え?他に誰かいんのか?」
そういえばさっき、聞いてくるって言ってたな…。

「数日前から女の子を一人、アルバイトに雇っててね。その子がまた料理上手で!その子に作ってもらったんだよ」

「よく働く子で助かってるんだよ」とおばちゃんは嬉しそうに話す。一人で店を切り盛りするには、やはり厳しかったのだろう。

「へぇ。で、その子は?」

店内を見回すが、それらしき人はいない。

あんなうまいマヨネーズを作れるなんて、きっとマヨネーズの真髄を極めたマヨラーに違いない‼︎
オレはその女を見てみたかった。

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