第15章 スイートよりビター
一松side
日も落ち、辺りが暗くなる頃。
俺はそっと玄関を上がり、深呼吸して階段を上がる。
俺達の部屋の襖の隙間から光が漏れていて、兄弟の影がにぎやかな声とともにその光の上を行き来しているのが見えた。
やけに楽しそうなその声に、昨夜の事を聞かれるのではという心配も忘れて襖を開けた。
「あ、一松兄さんお帰り!」
トド松と十四松が俺に駆け寄ってきて、両側から腕を掴まれ、部屋に引き入れられた。
「何なの、これ?」
部屋の真ん中には何冊かの雑誌が広げられていて、トド松と十四松に促されて、それを中心に座り込むとチョロ松兄さんがその内の一冊を俺に手渡してきた。
「今日、トド松と本屋に行ってきたんだ」
「僕とカラ松兄さんのバイト代で行けそうな場所の旅雑誌を見てきたんだけど、意外と色々あって決められなかったから皆で決めようと思って♪」
何かそんなこと言っていたなと、俺は手渡された雑誌に視線を落とした。
その雑誌の表紙には『愛知・名古屋』と書かれてある。
名古屋って愛知県だったんだ・・・
そんなことを思っていると十四松が俺の顔を覗き込んでくる。
「一松兄さんはどこか行きたい所ある?僕はね~、名古屋ドーム!手羽先も食べられまっせ!」
「それ、いいね」
十四松に笑顔を向けると、その後ろにカラ松が背を向けて眠っているのが目に入った。
十四松も自分から逸れた俺の視線を追って後ろを振り返った。
トド松とチョロ松兄さんもカラ松に視線を向ける。
「カラ松、今夜からバイトだもんね・・・ごめん、一松、もう少し静かにするよ」
「何で俺に謝るの?」
それ以上何も言わせないように威圧的な視線を向けたけど、チョロ松兄さんも、その隣に座るトド松もニタニタと笑っていて腹が立って舌打ちした時だった。
ガラガラッ!!ぴしゃん!!
と、乱暴に玄関を開け閉めする音がして、「もう少し静かに閉めなさい!」と父さんの声がした。
その声に「ごめんごめ~ん!」と返す声はおそ松兄さんだ。
その声になんとなくご機嫌であることを察した俺達は顔を見合わせて、登ってくる足音に振り返った。
すると、玄関同様に乱暴に襖が開けられる。
一階から「おそ松!!」と父さんの怒鳴る声がしたけど、今度はそれを無視して部屋にずかずかと入ってくるやいなや、広げられた旅雑誌の上に一つの封筒を放り投げた。