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松の間

第13章 触れられない*一松


日々何でもないことを語り合う
そんな時間が心地よいと感じるようになったこ頃

「一松君、私ね、思い出した」

一「いきなりだね」

漫画のように強く頭を打って思い出したとかかな

「というより、そろそろ時間みたい」

そう言って地面を見つめている
なんとなく泣きそうな顔に見えた

一「時間?」

「うん」

まったく話がみえない

「私ここで事故にあって・・・死んでるの」

一「え・・・嘘」

嘘じゃない、と言うように頭を横振る彼女

「でね、死ぬ前に恋がしたかったなって。それでここに残っちゃったみたい」

生死の境で恋とは・・・僕なら思わないかもな

「それが一方通行でも叶ったことになるから帰らなくちゃ」

一「帰るって」

スッと空を指さす
いつまでもここにいちゃいけないからって悲しそうに笑う

そんな、猫以外の僕のもう一つの楽しみになっていたのに

「ありがとう、一松君。楽しかったよ」

顔が近づき、キスをされる
否、感覚はない

「好きになってごめんね・・・さようなら」

少しずつ彼女の姿が光に透けていく

一「!・・・一之瀬ちゃん!」

大声で名を呼び、手を伸ばす
だが、その手は空を切った

一「な、んで・・・こんなの」

涙が溢れた
その涙に流されるように、僕の淡い恋は跡形もなく消えたのだった





* * * * * *

いつもの毎日、いつもの道
猫との時間を過ごした後の帰り道

A「一之瀬~、早く!」

「待ってよ」

女の子が二人走ってくる
あの時の子と同じ名前

すれ違い様に目が合った

A「知り合い?」

「分かんない・・・けど」

A「ま、いいや。行くよ!」

そのまま走り去っていく
生まれ変わりかな、とかファンタジーなことを考える


もしそうならば、今度は君が幸せな恋が出来ますように――――




-fin-
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