第6章 嗚呼、相棒。其処にいるか

「その時の殺気……というのかな。尋常じゃなかったよ。
　この刀は、たぶんあの時信長、様を切ろうとした刀だ」

信長を見つめて、由里は言った。
しん、とした空気に由里の言葉が響く。

「何故私に刀を渡したかって？　そんなの決まってる。
　あの時、私と信長、様が一緒にいて、一緒に逃げたのを知っているからでしょう？」

ふむ、と三成は頷き、こぶしを顎につけて考える仕草をしていた。

「一理ありますね。
　由里様の話を信じる信じないは兎も角、犯人にとっては、討ち取るはずの信長様を討ち取れなかったのも事実。
　その犯人とやらの、宣戦布告と受け取って良いでしょう」

「フォローありがとう。
　私の話は、信じてもらうしかない」

「ふぉろぉ？」

聞きなれない言葉に、三成は目を丸くする。

「助けってことよ。
　まあ、この時代にはルミノール反応の検査も、DNAの検査もないから、私を切った証拠はなにもでてこないけど」

そこで信長は刀を拾い上げ、鞘を抜いた。

「……確かに、真新しくはないが血の跡がある」

刃こぼれひとつしていないその刀は、妖しく輝いていた。
刀をこうまじまじと見るのも初めてな由里は、少し物怖じした。
刀のせいだけではないかもしれない。
刀を持つ信長の表情に、狂気を感じたのだ――。


と、その時だった。
沈黙を破ったのは、秀吉。

「おい、この刀、見覚えがある。お前のだろう？」