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君が笑う、その時まで

第14章 夏のハジマリ


 第3クウォーターが終わり、両校の選手たちがベンチに戻ってくる。

 誠凛ベンチを見れば、火神君が荒れていた。

「現状秀徳とやりあえるのはオレだけだろ。
 今必要なのはチームプレーじゃねぇ、オレが点を取ることだ」

「オイ、なんだそれ!!それと自己中は違うだろ!!」


 散々悪態をつく火神君を取り巻く雰囲気は剣呑としていた。
 秀徳との点差は一桁台にまで詰め寄られたとはいえ、チーム全体の雰囲気が停滞している誠凛に今後の試合展開を大きく変える力があるとは思えない。

 このまま誰も火神君を止められないのか、なんて諦めかけた時だった。
 黒子が彼の頬を思いっきり殴ったのは。

「ちょっ、黒子!?」

 誠凛ベンチからどよめきが起こる。あまりに唐突で予想外の展開に私ですら何も考えることができなくなり、彼から視線を逸らせずにいた。


「黒子テメェ!!」

 言うか早いか火神君が黒子の胸倉を掴む。

 2人の間には圧倒的な力の差があるとはいえ、黒子は火神君に対し物怖じひとつ見せはしなかった。

「バスケはひとりでやるものではないでしょう」

「皆で仲良くがんばりゃ負けてもいいのかよ!?勝たなきゃ何の意味もねぇよ!」

「ひとりで勝ってもイミなんかないだろう!
“キセキの世代”倒すって言ったのに、彼らと同じ考えでどうすんだ!」


「っ……!?」

 私は咄嗟に息をのんだ。黒子は普段は怒らないが、こうして目の前で剣幕を見せるとその威圧感に圧倒されてしまう。
 どうやら火神君も彼の剣幕におされ、すっかり言葉を失っている。

「今のお互いを信頼できていない状態で仮に秀徳を倒せたとしても、きっと誰も嬉しくないです」

「っ甘っちょろいこと言ってんなよ!
 そんなん勝てなきゃただのキレイ事だろーが!」


 バキッ。そんな効果音が似合うほどの勢いで火神君が黒子を殴る。

 それでも黒子は諦めてはいなかった。


「・・・じゃあ《勝利》ってなんですか。
 試合終了した時、どんなに相手より多くとっていても嬉しくなければそれは《勝利》じゃない!!」


 その時、何かが変わった。
 何というか……一瞬にして停滞気味だった誠凛全体の空気が一掃されたような気がした。


「…さあて。大きなどんでん返しが見られるかもしれないね」
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