第1章 東方仗助の恋愛事情
今日1日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
私は、手早く教科書をカバンに詰め込むと、教室をあとにした。
下駄箱の中の手紙に書かれた、指定場所へ急ぐ。
差出人は、隣のクラスの東方仗助。
早歩きで廊下を進みながら、呼ばれた理由に考えを巡らせる。
文面には来なければどうなっても知らないとあった。
もしかして知らないうちに怒らせるようなことをしたのだろうか?
心当たりも覚えもない。
指定場所の空き教室に着いた。恐る恐るドアを開けると、彼はもうすでにそこにいた。
「あ、来たんすね」
窓際に立っていた彼が私に振り向いた。その綺麗な顔立ちと瞳にドキリとしながらも、ずっと疑問に思っていたことを口に出す。
「あの、私なにかしましたか」
後ろ手にドアを閉め、ゆっくり教室の中央に歩き進む。
彼は動かずに、妖しく微笑んだ。そして一言。
「アンタ、俺の物になってくれよ」
鋭い視線が私を射抜き、足がすくんだ。
彼の言った事は理解できる。つまり付き合ってくれということだろう。
しかし、私?あの東方仗助が私のことを好き?
答えが出せずに固まっていると、東方仗助は深くため息をついた。
そして、私のところへゆっくりと歩み寄ってくる。
ただならぬ気を発しながら。怖くなった私は、ドアへ走り出すが、文化部の小さな女子より、帰宅部の高身長の男子の方が、圧倒的に強い。
東方仗助はドアにすがりついた私に覆い被さるようにしてドアに手をつき、取っ手を引き抜いた。
取っ手のないドアなんて初めて見た。
「何逃げてんの?」
後ろから腰に手を回される。そして、強い力でぐい、と引き寄せられた。
「逃げてんじゃねぇよ」
低いトーンで囁かれ、恐怖からか息が荒くなる。