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ナツコイ【庭球】

第4章 ホーンテッド・スクール〔日吉若〕


「おい、どうしたんだよ!」

日吉の声と、肩を掴まれる感覚がして、薄く目を開ける。
目の前、かなり近くに日吉の顔があった。

「なんなんだよ、急に叫んで」


口がカラカラに乾いて、うまく言葉が出ない。

「…け……おば、け…」
「おばけ? 見たのか?」

頷いて、また目を閉じて窓を指差す。
日吉が指差した方に振り向く気配がした。
直後、くくくと小さな笑い声が聞こえてきて。

なんで笑うのだろう。
不思議に思ってゆっくり目を開けると、日吉が口を覆って必死に笑いを堪えていた。


「…ひ、よし?」
「お前、あれがおばけに見えたのか?」

え?
おそるおそる窓へ視線を移す。
日吉が懐中電灯を握っている私の右手に自分のそれを重ねて、明かりを視線の先に動かした。


「……カーテン…?」
「だろ、どう見ても」
「でっ、でも、ふわって、動いて…」
「風だろ。窓が開いてるからな」
「へ…」


嘘だ、だって確かにさっきは、おばけが。
そう思って眼を凝らすけれど、見れば見るほどそこにはカーテンしかなくて。


「よかったあ…」


腰が抜けて、へなへなとその場にへたり込む。
右手の中の懐中電灯が、床に触れてかちゃりと音を立てた。
ショートパンツでむき出しの太ももにも、床のひんやりとした感触。

私が完全に忘れていた照明を点滅させるミッションを、日吉は片手でさっと済ませて。
再び訪れた暗闇の中、ひざまずいて私に視線を合わせてくる。


「そんなに驚いたか?」
「もう、本当に死ぬかと思った…」
「そうか。悪かった」
「…え?」
「脅かしてやろうと思って、前の組のやつに頼んだんだよ。窓開といてくれってな」
「はあ? なんで…」
「クジ引いたとき、お前が嫌そうな顔するから悔しかった」
「……は?」
「…俺は、お前とで嬉しかったのに」


ふい、と視線を逸らした日吉。
これは、もしかして。
いや、もしかしなくても。
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