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【HQ/R18】二月の恋のうた

第4章 夏の思い出(3)


インターハイ3日目。

今夏最高の猛暑日になるという予報のとおり、まだ午前中も早い時間帯だというのに既に熱気で茹りそうな状態だ。

「あーつーいー」

体育館のロビーに入るなり、天童がこぼす。
白鳥沢が借りている大学の合宿所から会場まではバス移動、外気に晒されたのはほんの数分間だというのに、情けない声を出している。

まあ、それもまた天童らしい。

そう思っていると、同じように感じたのか、先輩のうちの1人が「天童なら言うと思ったわ」と振り返って笑声を上げた。

ロビーは、どこを見てもジャージ姿の人間ばかりだが、数は少ない。
今朝の時点で、出場校は絞り込まれて16校。
学校関係者以外の一般の観客もそろそろ数が増えてくる頃だが、それは時間的にはもう少し遅い話になる。

「あーもーしんどいー。こんな中で試合とかありえないデショー」

頭の後ろで手を組んで、小さな声で天童がぼやく。
すぐさま大平が、
「そういうことを先輩たちの近くで言うかね、お前は」
と咎めたが、天童は平然と笑って俺を見た。

「気にしないっしょー。ほら、スタメンの若利くんだって気にしていないようだし」
「若利を基準にするんじゃない」
「…獅音、その発言、何気にひどくない? ――何か言わなくていいの、若利くん」

口端を釣り上げて天童が横目に俺を見る。
俺は、こめかみから伝い落ちようとしている汗を手の甲で拭いながら「問題ないが」と簡潔に答えた。

俺たちのやりとりを聞いていたわけではないだろうが、会話が途切れたそのタイミングで、やってきた先輩が尋ねてきた。

「瀬見は?」

俺と天童が顔を見合わせる。
大平だけが、答えを用意していたらしい。
「瀬見と山形はトイレに行きました」
明確な返答。

そういえばバスから降りた後、姿を見ていないと俺は今になってようやく気付いた。
意外なことに、周囲の動向には目敏い天童も瀬見たちの不在は気付いてなかったようで、「ふーん」と独り言を口にしてから大平に言った。

「獅音、英太くんたち、本当にトイレ行ったの?」
「…他に行く場所もないだろう?」
怪訝そうにして大平が質問で返した。言外に「何を聞いてくるんだ」と言ってもいる。

天童はそこで「うーん」と唸ると、俺に視線を投げてきた。

「探しに行ってたりするんじゃない…“天海”さんとか」
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