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【庭球・BL・海不二】黄昏に映える人

第11章 儚きものが散りゆくは。


「海堂…」

 離れようとしていた不二先輩が、逆に自分から寄り添ってきた。
 相手は男なのに。
 男同士でこんなこと…どう考えても、変なのに。

「ねぇ…僕、汗臭くない?」
「……気にならないっス」
「ねぇ…海堂は、嫌じゃないの?」
「…っス」
「不二先輩は…嫌っスか」
「ううん…嫌じゃない」

 きゅ、と背中に回っていた不二先輩の腕に力が一瞬だけこもって。
 そっと体が離れた。
 俺はようやく不二先輩を解放する。

「…何を確かめてたの?」

 少し赤い頬。
 戸惑うように瞳が揺れる。
 不二先輩のそんな顔から、目が離せなくなる。
 さっきから心臓がバクバクしっぱなしだ。
 一体、なんだってんだ。

「わかんないっス…」
「え?」
「もう一回、同じことしてみたらわかるかと思ったっスけど…」
「…うん」
「したいと思ったから……っス…」

 結局何にも答えは出なくて。
 ただ、そうしたいと。
 そう思ったんだと伝えるしかなかった。


「ねぇ、海堂」
「っ…はい…」


 どきっとした。
 また、さっきの甘い声だ。
 その声で名前を呼ばれると、どこかがキュッと掴まれたような、そんな気分になる。

「今日、僕の家に来ない?」
「っス」
 その誘いに、俺は考える間もなく頷いた。

「じゃあ…また後で」

 ふふふ、と笑う不二先輩。
 俺はしばらくその場から動けなかった。
 こっちが驚くくらい、嬉しそうな顔だったから。

「なんなんだよ…」

 顔が熱い。
 俺は手洗い場で頭から水を被り、自分の練習試合に臨んだ。
 でも、不二先輩のことがチラついて全然試合に集中できなかった。
 勝ったからいいようなものの…。
 本当に、一体どうしたっていうんだ。
 早いところ解決しねぇと…。




 今日は始業式だったから、部活の始まる時間が早くて。
 その分終わる時間もいつもより早い。
 着替え終わって部室から出ると、不二先輩が待っていた。

「海堂」

 呼ばれれば、キュッとまたどこかが締め付けられるような感覚。
 それは今まで経験したことがなかった。

「帰ろっか」
「っス」

 不二先輩と二人、歩いていく。
 今まで二人で話すことはあっても、こうやって二人だけで並んで歩くことはなかった。
 だからなのか、変に緊張する。

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