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【庭球・BL・海不二】黄昏に映える人

第11章 儚きものが散りゆくは。


 翌日、俺は不二先輩と顔を合わせることができなかった。
 気まずい。
 どうしてあんなことをしたのか…。
 明確な理由は見つかっていない。
 コートの中を走る背中を見つめる。

「ふしゅ――」
「どうした、海堂。不二の方ばっかり見て」

 声の主は、ノート片手に俺を見下ろしていた。
 ったく、この人は一体何を観察してるんだ。

「別に…」
 なんもないっス、と続けようとしたところで。

「ゲームセットアンドマッチ、ウォンバイ不二!!」

 ワッと歓声があがる。
「ふむ…今日の試合もデータにはならないな…」
 乾先輩はそう言ってノートを閉じた。
「前から中々本気を出さないから、データは取れなかったんだが…最近の不二は変だからな」
「……」
「気になるか?」
「…まぁ…気にならない…わけじゃないっス」
「そうか。…これ、不二に渡しておいてくれるか?」

 そう言って乾先輩から渡されたのは、スポーツドリンクの入ったペットボトル。

「これ…」
「俺特製。海堂も飲む?」
「遠慮します」
「そう、残念。それじゃ、俺、次試合だから」

 フェンスの向こうへ、不二先輩と入れ違いに乾先輩がコートの中に入っていった。

「……」

 渡されたペットボトルに目を落とす。
 どうしようか。
 早くしなければ、行ってしまう。
 …これは、頼まれたこと、だから。
 タオルを首にかけたまま、手洗い場へ歩いていく不二先輩を追いかける。


「あの…」
「…海堂?」
「……これ、乾先輩から預かったっス」
「ああ。ありがとう」
「……」
「海堂?」

 小さく微笑んで手を差し出す不二先輩。
 昨日の出来事は、まるでなかったような。
 このペットボトルから手を離したら、ダメな気がして。

「不二、先輩…」
「…なぁに?」
「昨日…俺…」
「――昨日? 何か、あった?」
「え…」

 驚いて不二先輩の顔をまじまじと見る。
 いつもの綺麗な顔。
 柔らかな笑み。
 でも、変だ。
 いや……最近、ずっと変だ。

「ねぇ。これ、飲んでもいい?」
「あ…」

 握り締めたままのペットボトル。
 俺は今度こそすんなりと渡した。


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