第12章 愛のかたまり
シャワーを終えて、リビングに入ると、先生が俺を抱き締めてきた。
*「智。すまない…」
先生は涙ぐみながら、俺の肩口に頭を擦り寄せてくる。
俺は先生の背中と頭をそっと撫でてあげた。
「うん…」
俺を抱き締めながら何度も謝ってくる先生。
いつも、このくりかえし。
先生は、自分の意に沿わないことがあると、途端に豹変する。
今日は、殴られなかっただけ、少しはましか。
朝目覚めると、隣に先生は居ない。
いつも、いつの間にか帰ってる。
そっとシーツをなでてみる。
そこに温もりはない。
はぁ…。
俺は、何を期待してる?
もう…あの頃の先生は、居ないのに。
不意に流れる涙を手の甲で拭って、ベッドから起き上がった。
すると、昨夜の情事のシルシが内腿をつたった。
俺は、ボックスティッシュを何枚か引き抜き、そっと内腿に宛がった。
「別れた方がいいんかな…」
何度も考えた。
先生に伝えようとしたこともあった。
でも、離れられない。
どんなに乱暴に扱われても。
あの時折見せる優しさに。
この時の俺は、愛されてると思っていた。
これが愛なんだって。
あの人なりの愛し方なんだって。
そう思っていた。
俺馬鹿だったなあ。
恋は盲目って、ほんとなんだな。