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短編集【庭球】

第72章 エンドロールをぶっとばせI〔ジャッカル桑原〕


* *


洗面所にあったバスローブを羽織って、部屋に戻った。
もしジャッカルが眠っていたらお金だけ置いてこっそり部屋を出てしまいたいなんて思っていたけれど、現実はそう甘くはなかった。
音で起こしてしまわないように、ドライヤーもやめておいたのに。


「おう、さっぱりしたか?」


スマホ片手にベッドの縁に腰かけたジャッカルは、ジーンズだけを身につけていた。
むき出しの上半身は学生時代、着替えのときに幾度となく目にしたことがあるはずなのに、今はまったく別物のように見えた。


「うん……、あのさ、ジャッカル」
「どうした?」


私が言い淀んでいる間に、ジャッカルは立ち上がって、部屋の隅のウォーターサーバーからグラスに水を注いだ。
「ん。飲むだろ」と当たり前のように気負いなく差し出されたそれを受け取る。
ありがと、と小さく告げた声は、気まずさからか緊張からか、はたまた酒灼けからなのか、少しかすれていた。
自分の分を注いでその場でごくごくと飲み干したジャッカルは、またベッドの縁に腰を落として、ちびちびと水を飲みながら立ち尽くす私を不思議そうに見た。


「あの……、あのね」
「どうしたんだよ、そんなもったいぶってやっぱりなんでもないとかナシだぜ」


ジャッカルは「あ、二日酔いか? 昨日すげえ飲んでたもんな」と少し笑った。
二日酔いなのはもっともだけれど、あいにくそんなに平和な話じゃない。
ううん、と力なく首を振った私に、ジャッカルは笑うのをやめて口をつぐんだ。
昨夜身体を重ねたのだろうベッドに並んで座るのはさすがに気が引けて、ソファに腰を下ろす。
ローテーブルにグラスを置いて、すうと息を吸った。
視線を合わせることは、泣いてしまいそうでできないけれど。
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