第72章 エンドロールをぶっとばせI〔ジャッカル桑原〕
*社会人設定
頭の痛みで目が覚めた。
深酒した日に眠りが浅くなるのは、お酒を覚えた頃から変わらない。
まだ明け方だろうか、部屋は真っ暗だ。
アルコール臭が色濃く残る呼吸に、ずいぶん飲んでしまったと顔が無意識のうちに歪んだ。
時計を確認しようと身じろぎした、瞬間。
──なんだ、この違和感は。
シーツの手触り、マットレスの沈み具合、暗闇の中にぼんやりと見える天井は、どれも身に覚えのないものばかりで。
空調が効いているのもおかしい、したたか酔って帰った日はエアコンを入れることすら面倒でベッドにダイブしてしまうことが多いのに。
化粧を落としていない顔は、そのせいでひどく乾燥していた。
ここはどこだ、飛び起きると自分が何も身につけていないことに気がついて、息を飲んだ。
え、嘘でしょ、何これ。
あたりを見回して、生活感と窓のないだだっ広い部屋、その真ん中に置かれた大きなベッドと、お世辞にも上品とはいえない内装に、ここがラブホテルであることを悟る。
なんで私こんなところにいるんだっけ。
記憶を辿ろうとするけれど、まったく思い出せなくて愕然とする。
若さを理由にすれば何でも許される年齢はとうに通り越したというのに、酔って記憶を飛ばした挙句ラブホに転がりこんだのか私は──誰と?
ぶわ、と冷や汗が噴き出してくる感覚を覚えながらおそるおそる自分の左隣に目を遣ると、白いシーツの波間に褐色のスキンヘッドが見えて、崖から突き落とされたような気分になった。
「じゃっ…か、る…」
「ん、起きたのか…? 早いな…」