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短編集【庭球】

第70章 夜よ明けないで〔千歳千里〕


待つことは苦手ではないけれど、どこかで報われない結末を意識してしまうと途端に苦しくなる。
だからよかったのだ、今の自分の回答は最善で最良の選択だった。
同棲の誘いかもしれないだなんて、希望的観測を大いに含んだ曲解だったのだ。
そう思い込もうとした、そのとき。


「ッ、え?!」


急に視界が反転して、背中に感じたのは床の硬い感触。
ぐるりと体勢を逆転させた千里が、私の顔の真横に腕を突き立てていた。
こちらをじっと見下ろす眼差しの真剣さに、思わず息を飲む。


「俺は猫やなかよ」
「え…」
「言うたろ? 男は狼やけん気ぃつけなっせ、ち」


私に覆いかぶさった千里は、何かを企んでいるような笑みを浮かべて、私の髪を一筋すくってくるりと指に巻きつけながら言った。
言外に「このあとの展開を予想してみろ」と試されているのだということはわかったけれど、風呂上がりの熱を残した千里の身体や、それを余すことなく感じるこの体勢に、私の脳は思考を停止してしまったらしい。
千里はそれを理解したのか、私の耳元に唇を寄せて囁いた。


「ほら、早よ首輪ばつけんと」
「………」
「ちゃんとしつけてくれんと、渚んこつ食ってしまうかもしれんよ?」
「……狼男は、首輪なんてつけたって引きちぎっちゃうんでしょう、どうせ…」


手に負えないわ、と続けた言葉は、千里の噛みつくような口づけに飲み込まれてしまった。
私の口内をたっぷり蹂躙したあと、唇をぺろりと舐めながら「物分かりのいい飼い主さんで助かるたい」と意地悪く言った千里は本物の肉食獣にしか見えなかったのだけれど、それは黙っておこうと思った。

窓の外の雨音が、急に強くなったような気がした。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
ぐずぐずしている間に冬…遅筆すみません。

千歳=狼男の妄想は前々からしてましたが、このお話はテニラビのイラストを見て無理やりひねり出しました。
もっとコスプレ感があるほうがウケはいい気はするんですけど…私の筆力ではこれが限界で。

最後は半端な一文で終わらせました。
急に感覚が研ぎ澄まされる=自分も獣の世界に足を踏み入れたという象徴、として捉えていただけたら。
…解説しないとわからないような文を書くなという批判は甘んじて受けます笑

少しでも楽しんでいただけますように。
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