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短編集【庭球】

第70章 夜よ明けないで〔千歳千里〕


*社会人設定




秋ってこんなに雨の多い季節だっただろうか。

予報では曇りのはずだったのにいつの間にか雨が降っている、という日がずいぶんと続いたせいで、天気予報をあてにするのはきっぱりやめにした。
昨夜のニュースでは傘のマークは見当たらなかったけれど、案の定と言うべきか、今は本降り。
今日も今日とて、洗濯物は部屋干しだ。
この調子では、きっと明日も。

日照り続きで災害級に暑かった今年の夏に戻ってほしいとは思わない。
けれどこうも太陽が見えないと心なしか肌寒いような気がして、湯船にゆっくりと浸かっていたら、日付が変わってしまった。
明日も仕事だ、早く寝なければ。
ドライヤーにスキンケアにとばたばたしていたら、不意にインターホンが鳴った。
一度、二度、少しの間を開けて三度目と、急かすように。


「はいはいはい、開けるから待って!」


とうに終電もなくなったこの時間、連絡一つ寄越さないままの唐突な来客には心当たりが大いにあるから驚きはしないけれど、こんなに性急なインターホンは珍しい。
酔っているのだろうか、お酒には強いはずなのに。
そんなことを思いながら急いで解錠すると、こちらから開ける前に勢いよくドアが開く。
頭をかがめて玄関に入ってきたのは思っていたとおりの人物──恋人である千歳千里その人だったけれど、その風体に私はひどく驚いた。


「えっ、ずぶ濡れじゃない!」


洋服はそのまま絞れそうなくらいだし、トレードマークのもさもさ頭はお風呂上がりのようにぺしゃんこで、ぽたぽたといくつも雫が落ちている。
雨は本降りだけれど豪雨というほどではないはずだ、この濡れ方は相当長い間外にいたということらしい。
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