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短編集【庭球】

第68章 その嘘は美しいか〔仁王雅治〕


ドリンク作りに洗濯、備品の整理から柳のデータ更新の手伝いまで、マネージャー業は意外と忙しい。
派手な銀髪が視界に入ると途端に胸が痛んだけれど、それでも休む暇なく働いていると時間はあっという間に過ぎた。
仁王のことを考えなくていい分、仕事に追い立てられている方が楽なのかもしれない。
しばらくは手持ち無沙汰な時間をつくらないようにしよう、自分の中でそう結論づけた頃、部活が終わった。


「ねーねー仁王ー」
「おう、ずいぶん痛そうじゃの」
「でしょ? 階段で転んだの、落ち込んでるからジュース奢って」
「…ピヨ」


二人きりになるために無理やり感が否めない理由をつけて、帰り際の仁王を呼び止める。
当然のことながら仁王は渋ったけれど、私が唐突に繰り出したじゃんけんに勝つと「仕方ないのう」と観念したように言った。


「何がええんじゃ」
「うーん…見てから決める」
「ん」


二人で部室を出て、中庭の自販機までを歩く。
パワーリストをつけたたくましい腕、毛先が少し痛んでいる髪、気怠げな横顔。
今朝までは何とも思わなかったことが急に気になって、また胸がきゅうと痛んだ。


「ほれ」
「わーい、ありがと!」


パック入りのいちごオレを手渡してくれた仁王は「そんな甘ったるいの、よう飲めるのう」と言いながら、自分の分の炭酸ジュースを自販機から取り出した。
周りに誰もいないことをもう一度確認して、パックにストローを挿す。
仁王がペットボトルを開けたプシュ、という音を聞いてから、切り出した。


「昨日また女の子振ったでしょ? よく練習見に来てた子」
「…プリッ」
「今朝さ、その子にビンタされたの。仁王が断るときに私の名前出したのが嫌だったんだって。付き合ってるって勘違いされちゃって」
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