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短編集【庭球】

第65章 キスとデータは使いよう〔柳蓮二〕


ここまで饒舌な柳は初めてで、柳なりに緊張しているのかもしれない。
そう思ったら、柳に聞こえてしまいそうなくらい鳴り響いている心臓の音さえくすぐったい。
ついさっきまであれだけ悲しかったのに、現金な女だと呆れられるだろうか。

失恋の傷はまだ、鋭く痛むけれど。
いずれ癒えてかさぶたになったら、柳にはひとまず恩返しがしたい。
話はそれからだ。


* *


涙を止めるには舌に刺激を与えるのがいいのだと種明かしをされたのは、恋人の関係になって一年近く経った後のことだった。
俳優さんなんかは、泣いてはいけないシーンで自分の舌先を噛んで、痛みで涙を紛らわせるのだという。
あれ以来私は泣いていないから、確かめようにも確かめられないのだけれど。


「でも、わざわざあんなキスしなくてもよかったんじゃない? 私あのときびっくりして…」
「相手の弱点を狙うのは、勝負のセオリーだろう」


今日はいい天気だな、とでも言うような口調で、蓮二はこともなげに言う。
そうやって自分ばっかり余裕があるみたいな感じ、ずるい。
唇を尖らせると、蓮二は「あまり可愛い顔をするな、食べたくなるだろう」と冗談とも本気ともつかない瞳で笑った。


「もう、何それ」


幸せだな、と思う。
誰かを愛する幸せを教えてくれたのは、やっぱりこの人だった。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
定期的に書きたくなる柳ですが、いかがでしたか。

タイトルはことわざ「馬鹿と鋏は使いよう」をもじったもの。
使う人間の能力が高ければ効果を発揮する、というね。
柳ならデータもキスも駆使して好きな女の子を手に入れちゃうだろうな、という思いを込めました。

柳って好きな子に対しては絶対、すこぶる甘いと思います。
ただ、ベッドではドSでいてほしいという妄想。
声がいいだけに…!
いつか柳の裏も書けたらいいな、と言いつつまだ構想さえありませんが笑

少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
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