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短編集【庭球】

第64章 きみがきこえる〔手塚国光〕


それからしばらく、病院の周りの散歩道から国光が見ている景色の話をした。
サルスベリが咲いているだとか、標識の見慣れない地名が新鮮だとか、テニスコートが近くにあるだとか。

そうしているうちに国光が病院に着いてしまって、電話を切ることになった。
「また電話したいな」と私が言うより先に、国光が「また電話をしてもいいだろうか」と、少し言いにくそうに言った。


「なあに、私そんなに国光のこと忘れてそうに見えるー?」
「いや……俺が渚の声を聞きたいだけだ」


私も、と小さく言ってから、またねと言い合って電話を切った。
ツー、ツー、という電子音を確認して、スマホを耳から離す。
ほう、と吐いた息が熱い。

窓の外では、まだテニス部が走り回っている。
今度電話をするときは、私がこの景色を伝えてあげようと思った。


空のペットボトルをゴミ箱に放った。
ゴミ箱の底を打つパコン、という間抜けな音さえ、今の私を祝福してくれているような気がする。
つい緩んできてしまう口元は、職員室に鍵を返しに行くときまでには引き締めておかなければ。

そんなことを思いながら、私は生徒会室の鍵を閉めた。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありかとうございました。
久々の手塚、いかがでしたか?
と言いつつ手塚出てこない罠…本当にすみません。
だって手塚部長がリアルでデレてる姿想像できないんです、この想像力の貧しさといったら!

しかしテニラビや新テニから入った方にとっては、手塚の九州行きって特別な思い入れがないものだったりするのでしょうか。
だとしたら大変不親切設計というか、前回更新した桃夢もそうでしたが、今更感たっぷりなお話でごめんなさい。
というか新テニでは九州どころかドイツですもんね、九州のインパクト霞みますよね…連載当時は「えええ!」とか思ったんですけどね笑

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
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