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~短歌~

第3章 春の園 紅にほふ 桃の花 下照る道に いで立つ娘子




「あいわかった。わかったが、しかし。」
「まぁ、どうやって叶える?ってとこだろ?」
「そう!よくわかったな!」

次はその尻尾をボン!と膨らませ、ついでに耳もピンと立つ。

「けど、葉っぱを金に化かして使うのは気分が悪い。他の方法がいい。」
「我儘。」
「我儘だろうがなんだろうが、人を騙すのはいただけねぇよ。」
「耳が痛いのぅ。」

次はその尻尾が細くなり、耳が下を向く。
なんだ、案外解りやすいな。
狐も犬も似たようなもんか。

「冗談だ。恩返しはいらねぇよ、めんどくせぇ。」
「からかったと?」
「からかってはないが、冗談ってことにしてくれ。無理難題を無理に解決してほしい訳じゃねぇからな。それに、あの母鹿の事を気に掛けてくれた事でイーブンにしようや。」
「いーぶん?」
「引き分け。」
「ふん。わかった。」

狐が唐突に空を見上げ大きく深呼吸をする。
釣られて空を見上げれば、東の空が白み始めているところだった。

「今宵は楽しかった。誰かとあれほど話をしたのは久方ぶりじゃった。」
「喋る狐なんか関わって得な事は無いからな。避けて当然だ。」
「ではなぜ、お前は付き合った?」
「騙される事を前提として付き合った。」
「あぁそう。もうイタズラは懲りたからな。じゃ、私は巣に帰るよ。」
「じゃぁ、また何処かでな。」
「おう。」

しゅるりと岩の向こうに消えて行った黒狐。
狐のおかげで目的は達する事が出来たが、如何せん話が過ぎた。
今日もまた寝不足で仕事に当たらなければいけないのかと思うと陰鬱だ。
春眠暁を覚えず、と惰眠を貪りたい欲がふつふつと湧き上がる。
めんどくせー。






(蓬の季節)

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