第3章 春の園 紅にほふ 桃の花 下照る道に いで立つ娘子
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「親父。一応妊娠してた母鹿は全部出産したみたいだ。」
「双子はいたか?」
「いや、いねぇな。」
この時期の鹿たちは警戒心が強くて困る。
時折こちらに攻撃をしてくる母鹿も居る。
子供を守る本能なのだろうが、世話をしているこちらの身にもなってほしいってもんだ。
「おかしいな。1つだけ数が合わない。」
「数え間違えたんじゃないのか?」
「母鹿の数が合わない。少ない。」
「食われたか?」
「最近は熊も見てないが。」
ったくめんどくせぇな。
今年は春先に狐が熊に襲われていた。
熊が全くいないってことは無いだろうが、鹿の死骸や熊が食い散らかした後は見ていない。
「シカマル、すまんが夜に見まわってくれないか?オレは任務が。」
「はいはい。」
獣たちの行動が鈍る夜の方が見て回るのはたやすい。
警戒されないようにこちらが静かに動けばいいだけだからだ。
夜、と言っても深夜に近い時間だが、家を出、山を目指した。
今日は満月か。
月明かりが見周りを助けてくれそうだった。
気配を消して山に足を踏み入れると、わずかだが獣たちが動いている気配がした。
こんな深夜に鹿たちが起きて動き回っているなんて、今年は何か厄介な物が紛れ込んでいるのだろうか?
慎重に足を勧め、鹿たちの群れに近づく。
(人?)
大木の枝に人間がいる。
それも、かなり美人。
巫女のような服を身にまとい、大木の枝に腰掛けその下に向かって何か楽しそうに話しかけている。
この人間の所為か?山の獣が煩いのは。