• テキストサイズ

Fate/IF

第4章 「過去の未来」 初めて、クーと呼んだ日



「よう、嬢ちゃん」
 気づいてはいた。気づいてはいたけど、まさか、私に話しかけてくるとは思ってもいなかった。
 だから、私は立ち読みしていた本を、本棚に戻すことなく、今現在も手にしている。
 私は手にした本の内容を悟られないように、極々自然な動きで、そのタイトルを覆い隠し、本を閉じた。
「……どうも、教会の人ですよね」
「否定はしねえが……そう固くなるなって」
 ――無茶言うな。こっちは今の今まで、あんたの出てくるケルト神話を立ち読みしてたんだから。
 とは口が裂けても言えないので、からからと笑うその人を見あげるしかない。
「別に教会飛び出した嬢ちゃんを連れ戻せなんて言われちゃいねえからよ」
「だったら、なんで私なんかに話しかけてきたんですか」
「ああ、今ちょっとバイト先をさがしててな。嬢ちゃんなら、いいとこ知ってるんじゃねえかと思ってよ」
「だったら、神父にでも転職したらどうですか。あの辛気臭い教会が、劇的に変わると思いますよ」
 どうにかして今ここにいる彼を追い返したい一心で、適当に思ったことを言ってみる。すると、言われた本人は目を丸くして、それから、実に愉快そうに笑いだした。
「今の台詞、綺礼に聞かせてやりたかったぜ。嬢ちゃん、教会に戻って来いよ。それだけで、あの辛気臭さはふっ飛ぶと思うぜ?」
「だが、断る」
 すっぱりと切り捨て、私は買うつもりもない本を手にしたまま、踵を返す。
 このまま、ここに留まっていても話は終わりそうにない。明らかな拒絶をにじませて、さっさと別の本棚に向かう私に、けれども、彼はなんの憚りもなくついてきた。
 こうなってはしかたがないので、私はかごを手に取ると、たまたま目に留まった「犬図鑑」とかいう大型の本を、ケルト神話の本に重ね、かごに入れる。
 ケルト神話の英雄は、それをしげしげと眺めて言った。
/ 38ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp