第3章 【歪んだ神父の記憶】 無関心から興味へと変わる瞬間
それを、生かさず、殺さずに留めておくことは、非常に困難だった。
冬木の大災害の中に自ら飛びこみ、一人の少年が保護されたのを、その目で確認して間もなく、生きた人形のようになってしまった少女。最初は、衛宮切嗣が生き残った少年と共に、養子として迎え入れようとしていたが、当の少女の様子があまりに異常であったため、教会が保護することになった。
瞳は、ガラス玉のように景色を映すだけで、何も捉えない。身動きはおろか、声のひとつももらすことなく、動的要素は皆無。ただひとつ、呼吸を除いた動きがあるとするならば、それは開かれたままの瞳から、絶えずこぼれ落ちる涙だけだった。
他の者たちと同じように、生かさず殺さず、教会の地下に閉じこめてはいたものの、明らかな異常が見られるその少女に関しては、私も早々にその生存をあきらめていた。
もとより、少女一人がいなくなったところで、他の者が生きている限り、ギルガメッシュへの魔力の供給が滞ることはない。
しかし、一体なぜなのか。よりにもよって、ギルガメッシュはその少女を気に入ってしまった。
初めて、ギルガメッシュが教会の地下を訪れたとき、彼はすぐにその少女に気がついた。ギルガメッシュの赤い双眸に宿ったのは、純粋な驚き。やがて、それは懐古へと変わり、慈しみへと変貌する。
開かれたままの少女の瞳を、手ずから閉ざさせた手つきは、ひどくやさしく、私は己の目を疑いすらしたほどだった。
「綺礼よ、この娘、まだ死んではおらぬぞ」
「どういう意味だ?」
「動かぬのは身体のみだ。精神までは死んではおらぬ」
ギルガメッシュが少女の頬に手を滑らせ、その涙を拭うが、また新たにこぼれ落ちる涙が、その頬を伝う。
それを見つめながら、ギルガメッシュは言った。
「どうやら、人の身には余るものを内包しているらしい。それを自覚していながら、身に余るものを受け入れようとしているのだから――なかなかどうしておもしろい娘よ」
くつくつと喉を鳴らして、そう笑う。
「我は、この娘が気に入った。他の奴らは知らぬ――精々、この娘を死なせぬように努力することだ」
言うだけ言うと、私を残して、ギルガメッシュは地下から立ち去った。