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【刀剣乱舞】守護者の恋

第8章 本丸の最期


土にまみれた封筒から出てきたものは、千代紙で縁取られた美しい和紙に書かれた手紙だった。
もうすぐ朝陽が昇る気配を感じつつ、審神者の部屋からみなは移動した。生活の多くを過ごしている畳部屋で正座をして、一人ずつその手紙を読み、全員が読み終わるまで無言で待ち続けた。

審神者の遺言は、その9割が事務的なものだった。
現代で死した場合は過去に遡れなくなるため、そこでこのプロジェクトは終了。
過去で死した場合は、もし、刀剣達が付喪神としての存在を維持したままならば、咲弥の力を借りて本丸を過去に維持し、出陣に関しては刀剣達の意思を尊重する。
どちらの場合も、刀剣達が現状を維持出来なくなるまでがリミットである。
咲弥は刀剣の魂が本丸より去るまで見届けたのち、過去にいれば現代に戻り、プロジェクトの完了報告をする。
現代にいれば上層部に速やかに報告を行って、さにわの遺体回収を依頼。過去にいれば本丸奥に設置してある保存箱に遺体を一時的に保管を行い、現代に戻ってから回収依頼をすること。
過去で刀剣達がその姿を維持できず魂に戻っても、あるべき場所に正しく還ることが可能なので安心せよ。
そして。

この遺書を書いている日。
桜の花びらが沢山風で散ってしまったけれど、今までの人生でこんなに幸せな気持ちで桜を見る日々はなかったということ。
幼い頃から特殊な力を持つが故に姿なきものに脅され、姿ある人間には疎まれ続けたというのに、最後にこんな幸せが待っているとは思わなかった。
刀の主としては何一つ出来ぬ身ではあったけれど、一方的ではあるけれど、三人を、それから咲弥を愛していると。

ごめんなさい
ありがとう
ありがとう
ありがとう
ありがとう

四回書かれた「ありがとう」の文字は、最後の一つ以外、にじんだ痕があった。
四人に向けて一つ一つ書かれたありがとうなのか、それともにじんでしまったがゆえに気に入らずに書き直したありがとうなのか、それは誰にもわからない。
束穂は、ごめんなさいが一回だけでよかった、とそっと心の中で思った。
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