第2章 4月
待っている間に、鉄朗へ電話を掛けてみたが、結果は不在着信をまた一つ増やしただけに終わった。
携帯電話をしまうと少し駆け足の足音が近づいてくる。
「鈴さん、ココアは好きかな?」
顔を上げると、目の前に差し出されたのは温かい缶のミルクココアだった。
受け取ると、缶の熱がじんわりと両手に伝わる。
私の手、こんなに冷たくなっていたんだ…。
「君の事、クロから少し聞いているんだ…。その…辛い事、思い出させてしまって…本当にすまない」
私がお礼を言い出す前に、また謝られてしまった。
海さんがそんなに謝ることじゃないし、どうしたらいいのかわからなくて私は首を左右に振る。
(気にしないで…!)
「ごめん、ありがとう」
海さんは少し笑った。
坊主だからそう見えるのか、やっぱりこの人は仏様みたいだと思った。
「…もし、今後他のバレー部の奴らにも言いたく無い事を聞かれたら…無理して答えないでくれ」
(…聞かれたことに、答えない?)
どういう訳かわからず、私は首を傾げる。
「さっき俺が中学の部活の事を聞いてしまって、鈴さんは良い気分ではなかっただろう?」
…確かに、中学の部活は楽しくはなかった。
思い出すと胸がきゅっとする。
「話すのが辛いなら嘘をついても良いんだよ。そんな事で誰も君を嫌ったりなんてしないさ」
少なくともバレー部の連中はね、と付け足して苦笑いする海さん。
(全部に、答えない…それでいい、の?)
確かに私は、質問にはちゃんと答えないと、と気負ってしまっていたかもしれない。
「あれ、海、何やってんだ?」
私が頭を抱えていたところにやってきたのは3年の夜久さんだった。
海さんが鉄朗の寝坊を説明すると「あの寝癖ヤロー」と罵った後、諦めて海さんの隣に腰を下ろした。