第6章 交錯する想い
お嬢さんから薬の入った小瓶を預かって、先ほど瀬那を置いてきた場所へと戻る。
もしかして、また勝手にどこかへ行ったのではないか?と思っていたが、大人しく柱に身体を預け、幅のある手すりの上に座り、目を閉じていた。
ぐったりとした様子で、腕にはほとんど力が入らずにだらんとしている。
(どこかで見覚たような光景だな…)
お嬢さんを連れてこなくてよかった、と内心思いながら、声をかける。
「瀬那殿、薬をもらってきましたよ。」
返事は、
―――返ってこない。
軽く眩暈がした。
(……また、こんなの、か…)
近づいてよく瀬那 を見ると、
はぁはぁと少し早めの浅い呼吸を繰り返し、
その額にはじっとりとした油汗が浮かび、
血の色がまったく感じられないほどに真っ白な顔色で…
長い金髪の髪の一束が口元にかかっていた。
薬を飲むのに邪魔だろうと、口元の髪を払おうと髪に手を伸ばせば、その白い頬に指先が触れた。
「あつっ…!」
人の体温の上限を超えてるのではないかというほどの高熱だった。
――はやく薬を飲ませないと―――
薬室長の物騒な物言いは、こうなることを予見してのことだったか。
――気絶させてもいい――
そう薬室長が白雪に言ったのは、
もし、白雪が瀬那を見つけたときに、
こうして動けなくなっていた場合に、
意識のない状態で薬室に運び込まれることへの責任を自分が持つ、
それを明らかにしておく、そういう意図があったのかもしれない。
「まったく、手のかかるお姫様だな…。」
彼女の傷を負っていないほうの肩をたたき、もう一度呼ぶ。
「瀬那!」
服の上からでも、その熱が伝わってくるようで、一刻を争うらしいことを察した。
迷っても仕方ないし、薬を飲ませて薬室に連れて帰る、そうお嬢さんと約束している。
「美味い酒に、美味い料理も追加な。」
意識が朦朧としている瀬那に言い放ち、
迷わず、小瓶の中身を口に含み、
彼女の唇をしっかりとふさいで、
その液体を自分の舌で彼女の口の中へと押し込んだ。
――ごくん。
と、小瓶の液体が彼女の喉を通過するまで、そうしていたと思う。
やわらかい唇から、熱い体温を感じて、こちらの顔までその体温が伝わってくるようだった。