第8章 誠凛へ
「名前っち」
『うん?』
「火神っちと付き合えて幸せ?」
『なんか、心がほわってする』
「幸せなんスね、良かった」
当たり前だが電話越しだから相手の表情がわからない。苗字には彼の声が泣いているようにも笑っているようにも聞こえた
それをどう聞けばいいのか、触れていいものなのかと彼女が思考を巡らせているうちにスマホから「あーあ」と残念そうにする黄瀬の声が耳に届く
「名前っちはなーんでオレじゃなくて火神っちを好きになったんスかねーオレの方がイケメンなのに」
『…なんでだろうね』
「まー恋って理論じゃないっスからね」
今度の声は泣きそうだと判断した。ふと彼がどうしてここまで恋愛について語ってくるのか気になって、彼女が黄瀬に関係を問いかける
『あの、黄瀬君と私ってさ』
「友達っスよ。あ、うそうそ彼氏彼氏!」
『その言い方絶対嘘だぁ』
またくすくす笑う苗字の声を電話越しで聞く黄瀬は、少し寂しそうに笑った
「名前っちとのお出かけ、楽しみだなー」
『私もバスケ見るの楽しいし、笠松さんも森山さんにも会えるのすごく楽しみ』
「オレはー?」
『うん。楽しみ』
「やったっスー!」
それから雑談を混じえながら当日どことどこの試合があるか、昔誠凛と海常が戦って絶対勝てると思ったが負けてしまって悔しかったこと
そうやって話していくうちに睡魔に襲われていく。誰かと話している安心感と、黄瀬君の声がどこか心地よくて瞼がだんだん閉じられていく
それに気づいた黄瀬君が私の名前を呼んでいるのが遠くで聞こえた
「おやすみ、名前っち」
その声だけやけにしっかり耳に届いた。その日夢で高校生の火神君と黒子君と黄瀬君がストバスしている夢を見た
だがその夢の中で彼らには私が見えていないのか、ストバスのコートのどこにも私の存在がない
これが事実なのかただの夢なのか、でも高校の制服なんて私は知らないからやっぱり事実なのかもしれないと思い、今度3人のうち誰かに話してみようと思った