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【イケメン戦国】私と猫と

第16章 かごの中の鳥


満月の夜、城の庭にある池
その周りには、小さな白い花が咲く場所がある
湖が、時折来るこの場所は、人気の少ない湖のお気に入りの場所の一つだ
寝衣に夏羽織りという涼しげな格好
城の大部分の人は各自部屋に戻って寝ている時間だ

「今夜はすごく暑い・・」

夏、当然クーラーや扇風機など涼しさをくれる便利なものはなく
少し寝苦しいこの時期に、湖は夜たびたび此処を訪れていた
本人は知らないが、当然のように信長をはじめとする城の面々はこの事を知っていた
知って黙っているのは、湖がこの場で歌っているから
小さな歌声が、風に乗って聞えてくる
それが、この夏の夜の恒例になりつつあった

当然、今夜も・・・


-小さな 小さな 誘い声
-月夜の晩の秘密だよ

-秘密の舞踏会、ひとときのダンスを
-特別な時間を、あなたとともに


風に乗って運ばれる
小さな優しい声に襖を開けて聞き入るもの
寝苦しい夜の子守歌にと、褥の中で聞き入るもの

湖は、1、2曲歌えば池での涼みを追えて部屋に戻る
いつもは、そのまま部屋に戻って寝るのだが・・・
今夜は違った

城の廊下を静かに歩いていれば
湖の前に現れたのは、黒い人影
ふわりと舞い花びらのように姿を現したそれに、恐怖もわかず夢心地で尋ねてしまった

「・・・だれ?」

自分とあまり背丈の変わらない人影に手を伸ばせば、それは湖と同じように湖に向かって手を伸ばし、こう言った

「My precious・・・」

触れられた耳たぶに冷たい感触
はっと気づき伸ばした手を引き身構えた瞬間、その人影は目の前から消えた

(っ・・・!)

誰も居ない、気配もない
急に暗い廊下が、恐ろしく見えた

(・・・今のなに・・)

あまりに一瞬の出来事に湖は自分が夢を見たのでは無いかと思った
なぜなら、この時代に来て初めて聞く言葉
相手が英語を話していたのだから

(おばけ・・・じゃ・・・)

ぞわっと背筋に、悪寒が走る
ごとりと、何かが落ちるような音が空き部屋から聞こえれば

「っ、きっ・・・きゃぁぁっ・・・!!」

真夜中の悲鳴に、ぽつりぽつりと明かりがつき始める
バタバタと寝衣姿で走って声の元に駆けつけるもの
見回り当番も灯を持って廊下を走り出す
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