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キミ日和

第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志




「これでやっと食える・・・腹を空かせて待った甲斐があったというものだ!!」


そうその物の怪はニヤリと口角を上げて舌なめずりをする。


ふざけるな!!
こんなところで・・・やっと生きていることに喜びを感じられたばかりだと言うのに・・・なんとか視線を璃音さんの方へと向ける。


かすみ始めた俺の目に映ったのは、戸惑いながら、貴志くん・・・?そう俺の名を呼び、一歩、また一歩と恐る恐る近づいてくる彼女の姿。


「・・・来ちゃ、だ、めだ・・・璃音、さん・・・早く、逃げろ・・・」


薄れゆく意識の中で、そう必死に声を上げた。


「貴志くん!!」


来ちゃダメだと言ったのに、璃音さんは俺の元へと駆け寄って来てしまい、急にどうしたの?そう心配そうな顔で俺の肩に手をかける。


「ええい、五月蝿いわ!お前などに用はない!!」


そう物の怪が彼女の身体を払いのけた途端、彼女の細い身体はあっという間に吹き飛んで、数メートル先の地面へと勢いよく叩きつけられた。


まるで駒送りのように、スローモーションで流れていくその光景を、ただ目を見開いて見ていることしか出来なかった・・・


璃音さん・・・!!
ピクリとも動かないその身体を信じられない思いで眺める。
キャーーー!!!そう空を切るような悲鳴と人が騒ぎ出す声が遠くから聞こえる。


・・・よくも・・・


・・・よくも・・・


「・・・よくも、よくも璃音さんを!!」


これで邪魔者はいなくなった、そう言ってまさに俺の喉元に食らいつこうとしていた物の怪に、怒りでふるえる拳を思い切り振り上げた。


グワァァァーーーーー!!!


俺の拳を顔面にくらった物の怪は、そう地を這うようなうなり声を上げながら、雪の空へと消えていった。


ゲホッ・・・ゲホッ・・・


咳き込む喉を押さえながら、フラフラと璃音さんの元に駆け寄ると、心配そうに彼女を取り囲む人達を押しのけその身体を揺すり名を叫ぶ。


「璃音さん!璃音さん!!」


しっかりしてくれ、頼む、目を開けてくれ、そう必死に祈り、彼女のその細い身体を抱きしめた。

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