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キミ日和

第5章 【溶けかけの雪だるま日和】夏目貴志




「どうして・・・?」


見えないのに助けてくれたんだ・・・?、そんな疑問を口に出来るはずなくて口ごもると、キョトンとした顔をした璃音さんは、何?そう首を傾げる。


いや、いいんだ・・・そう言って目を伏せる。
そんなことどうだっていいじゃないか、どうせ彼女も道ですれ違っただけのただの通行人と同じなのだから。


直ぐに関係ない人間になる、だったら深入りしない方がいい、そう自分に言い聞かせ空を仰ぐ。
御神木の枝の先の狭い空を眺めながら、あぁ・・・ここはどこまでも天高くまでキレイな空間だな、そう目を細める。


「よくないよ!!」


突然、両頬をつかまれぐいっと下を向かされる。
真剣な目で少し頬を膨らませる璃音さんの顔に驚いて、それからその近さに戸惑ながら視線を泳がせる。


「貴志くん!言いたいことはちゃんと言って!いつもいつも心の中にしまい込んで、学校でも家の中でも、いつもいつも!」


約束して?私と2人の時だけは、言いたいことちゃんと話してくれるって・・・そう続けながら璃音さんは小指をそっと差し出す。


今までそんな風に言ってくれた人がいただろうか?
いつも気味悪がられ、嘘つきと罵倒され、こんな風に真剣に向き合ってくれた人なんていなかった。


今の学校でも、家庭でもそうだ。
・・・彼女の母親からはあからさまに疎まれながら生活している。


「どうしてうちで面倒見ないといけないの!うちには同い年の一人娘がいるのよ!何かあったらどうするの!?」


そう毎晩のようにおじさんを責める声に胸を痛める。
もう何年も前から使い古された持ち物、十分ではない食事・・・
新しいのを買うお金をください、お代わりいただけますか?とても言えずにいつも我慢する。


でもそれは当たり前のことだから、誰だって自分の家族が一番だから、だからどこに行っても俺は厄介者で、こんな俺を受け入れてくれる人なんかいなくて・・・


約束・・・そっとその小指に震える自分のそれを絡ませる。
破ったら針千本だからね?そう嬉しそうに笑う彼女の笑顔に、にじむ涙を必死に隠した。

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