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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


慎也はソファーに深く腰を下ろし、ヤニで汚れたシーリングファンを見つめていた。
何が起こったのかこの数日の事は、正直記憶が曖昧だ。
――と言うよりも、思い出したくない。
それでも毎日一人で過ごしていれば、嫌でも現実は突きつけられて来る。
身に染みて分かる現実と言えば、いつも必ず側にいたはずの二人がいないと言う事だった。
佐々山は殺害されたのだ。
例の藤間幸三郎によって。けれども事件は『被疑者不明』のまま捜査本部の解散を迎えた。
その事実は慎也に取って到底受け入れがたい内容だった。
泉は監視官を降ろされ、それどころか潜在犯予備軍として療養施設に送られた。
自分が捜査に出ている間に。慎也は彼女の顔すら見る事は出来なかった。
あんなに色相をクリアカラーで保っていた泉が、色相を濁らせた。
きっと泉は佐々山が殺される瞬間を見たのだ。
そこまで考えて、慎也はやりきれない憤りを覚える。
何故あの時、無理やりにでも二人を引き止めなかった。
何故あの時、無理やりにでも二人について行かなかった。
込み上げて来るのは後悔の言葉ばかりで、慎也はそっと灰皿に残っていた割かし綺麗な煙草を手に取って火を点けた。

「――ゴホッ。」

初めて肺に入れたそれは初心者にはきついもので、慎也は思わず咽る。
けれどもそれが自分が生きている証だと言われているようで、慎也はまた自分を苛んだ。

「マキシマ――。」

人混みの中、目を引く銀髪の男。彼の周りには乱暴に赤丸がひかれ、へたくそな字で『アキシマ』と書かれていた。

「――コイツが『マキシマ』なのか?」

あの日、慎也のデバイスに佐々山から短いメールが届いていた。

『マキシマと日向チャンを会わせるな。』

それだけだった。内容を問おうにも肝心の佐々山はもうこの世におらず、泉だって今隔離されていて自分が会える状態ではない。
そして昨日聞かされた事実だが、志恩のパソコンから公安局のデータベースに泉のIDでアクセスがあったらしい。
閲覧されたファイルは分からなかったが、検索ワードは『マキシマ』と『日向泉』だった。

「こいつが、『マキシマ』なのか。」

言葉と共に、紫煙は空間に放たれ、そして消えて行った。
空っぽになった慎也の胸の中で、何か、怪物めいた感情が蠢く。
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