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鬼の嫁入り【薄桜鬼】

第8章 風が吹いたので、雨が、降りそうだったので、


全てはあの時のめぐり合わせが間違いだったのだ。








Ep-08:風が吹いたので、雨が、降りそうだったので、








ドクン、ドクンと。
綾女の心臓は動いていた。
対峙をしているのは、新撰組の人。
確か名前は、沖田さん。
それから――。

鬼の、女の子。

千景が探し求めていた女鬼。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
そんな目であの子を見ないで。
お願い、私を見て。

「ち、かげ――。」

空気が読めないとか、バカだとか罵られても良い。
寧ろ怒ってくれて良いからこっちを見て。

「君――、綾女ちゃん?!何でここに?!」

沖田さんが鬼の子を庇ったまま、こちらを見て目を見開く。
だけどそんな事より、千景の背中しか見えないのが哀しかった。

「貴様、何で綾女を知っている?」

初めて千景が鬼の子から目を離して沖田さんを見る。

「――さぁね。君が『千景』か。成る程ね。手拭い、感謝してよね。」
「何?」

沖田さんの言葉に千景は少し考えるも、合点が行ったのかあからさまに舌打ちをする。

「後で覚えておけ、綾女。」
「何でも良いから!お願い、帰ろう?」

初めて自分に視線を向けた千景に、綾女は走り寄る。
辺りには死体が転がり、血の匂いがむせ返るが気にも止めない。

「沖田さん――!」
「下がって、千鶴ちゃん。――ねぇ、綾女ちゃん。その彼が君の言ってた千景でしょ?お願い、この場は連れて帰ってくれないかなぁ?」

千鶴、と言うのか。
綾女は沖田に庇われている鬼の子を見ながらそんな事を考えた。

「おい、人間。気安く綾女の名前を呼ぶな。」

グイッと腰を引かれたと思ったら、気付いたら千景の顔が目の前にあって。
不機嫌そうにこちらを見ている。
嗚呼、きっと彼は今怒りで頭が一杯なのだろう。
でもその瞳に自分が映っていて、綾女は何だかとても泣きたくなった。

「千景、帰ろ?ね、お願い。」
「――フン。興が冷めた。この場は引いてやる。女鬼、いずれ迎えに来る。それまでせいぜい生きるんだな。」

千景はそれだけ言うと、綾女を抱き上げて窓から消えた。
去り行く瞬間に綾女の目に焼き付いたのは、千鶴と言うあの女鬼の子だった。
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