第56章 【王者の恩返し】　その3

「聞くべきじゃなかった気がする。」

一見何気ない一言であるが、烏野・白鳥沢両校はほぼ全員固まった。

「ちょ、おい大地っ。」

東峰が慌てふためいて澤村に耳打ちした。

「縁下がウシワカ言い負かしたぞっ。」
「【悲報】ウシワカ、縁下に敗北。」
「スガもっ、釣りタイトル付けてる場合じゃないってっ。」
「落ち着け旭、動画サイトの見過ぎかっ、そもそも2人とも争ってねーからっ。でもうちのモンがすまんっ。」

これまた大慌てで振り返って詫びを入れる澤村に、白鳥沢勢もこいつ大変だなという目を向けている。

「いや若利は十中八九何も気にしてないから。」

大平は一番澤村の心境を察していた上でのフォローらしいが、実際に牛島は気にしていた様子がなかった。

「皆が騒がしいな。」
「俺が悪者にされてる感が凄いです。」
「どのあたりがだ。」
「ああ、お気になさらずに。」
「そうか。」

とかなんとかごちゃごちゃしている間に2周目の料理を持って美沙が戻ってくる。

「あれ、みんなどないかしたん。」

尋ねる美沙に義兄の力は何もないよと微笑んで答え、ふと義妹の手元に目を止めた。
戻った義妹の片手には1周目と同じタイプの皿、これまた色々料理を盛っている。
それはいいのだが、今回もう片方の手に丼も持っていた。

「うどんでも取ってきたのか。」

生まれも育ちも宮城とはいえ、文化は関西の義妹である。
丼に入れるようなものならそのへんだろうと思った力だったが

「ラーメン。」
「は。」

力は思わず聞き返した。

「せやからラーメン。」
「聞こえなかったって意味じゃない。」
「なんかおかしいん。」

首をかしげる義妹に力はため息をついた。

「皿は和食系なのになんでラーメンなんだよ。」

そこはせめてお蕎麦かおうどんかご飯だろと突っ込みたい。
そもそも薄味派を標榜しているはずではなかったのか。漂うスープの香りはまぁまぁ濃い味付けに思える。
しかし

「食べたかってんもん。」

義妹はこういうやつである。

「半分ボケに聞くことじゃなかった。」
「残さへんから大丈夫やって。」
「うん、基本そっちの心配はしてない。」