第46章 【王者の命】その6

「いや、言うてもその時は慣れてへんから失敗したらどないするつもりやっていう不安の方が凄くて無理やって私何度も断ったんやけどね。」
「そうなんだ。」
「せやけど兄さんが、兄さんが、」

美沙がうう、と唸った所で

「俺が何だって。」

突然後ろから聞き慣れた声に言われて美沙はふぎゃああああと飛び上がる。
ババッと振り向いたらやはり義兄の力がにっこり笑って立っていた。


例によって力の顔は笑っているが全身から黒い何かが漏れ出ているようにしか見えなかった。
日向も気がついたのかアワワワと怯える始末である。

「いや、兄さんその別に」

慌てて言い繕おうとする美沙だが

「俺が何って。」

黒い何かを背負ってにっこり笑いつつ言われては勝ち目はない。
もともと隠れブラコンとされるこいつが義兄に勝てる訳も無いのだ。

「その、決して兄さんが私無理って何度も言うたのに出来へんとは言わさへんとか挙句の果てにはフリフリ着せて及川さんと宮さんズに貸し出すとか卑怯且つ訳のわからん脅しをかけてきた話をしようとしたわけでは」
「美沙それ全部言ってるっ。」

日向に突っ込まれてどうするのか。どのみち時すでに遅しである。
全部聞かされた寒河江と赤倉は一体どういう状況だと引きつった笑み、力はやはり黒い何かを纏ったまま微笑んで義妹を見つめていた。
しばしの沈黙、美沙はビビりつつもま、負けへんもんと両手で拳をギュッと作って胸元に寄せている。

「まぁ今日は無理矢理来てもらった訳だし、勘弁してやるよ。」

力はふぅと息をついて黒い何かを解除した。
美沙と日向だけでなくつられて緊張してしまった寒河江と赤倉もハアアと安堵する。
白鳥沢勢からしたらとんだとばっちりだ。

「えとまぁそれは置いといて」

ここで美沙は一呼吸置くつもりで呟く。

「この人が兄です。」

実態はさておき。

「2年の縁下力です、初めまして。」
「あ、白鳥沢の寒河江です。」
「赤倉です。」
「よろしく。さっきはごめん、うちの美沙が急に叫んだりして。」
「あ、いえ」
「大丈夫です。」

寒河江と赤倉はブンブンと首を横に振る。
後で彼らが他の1年仲間に言った所によると、あれは叫んでも仕方ないと思ったそうだが、まさかそれを言う訳にもいくまい。