第36章 【トラブルドゥトラベリング】その2

「え、えと、兄さん。」

恐る恐るといった調子の義妹の声が聞こえる。

「結局他校引き寄せちゃったみたいだな。」

美沙は電話の向こうでううと唸った。

「せやけど私月島と山口の後ろでちゃんと静かにしてたんよ、声聞いた途端悪い予感しかせぇへんくて。」
「俺は疫病神かいっ。」
「よう似たもんやないの。」
「ままコちゃんがバリ(すごく)エグいっ。」
「ええいやっかましーっ、月島と山口無理矢理どかして人のこと引っ張った人が言うんやないっ。」
「美沙、漫才は後にして。」
「してへんもん。」
「お前も他の皆も頑張ったのはよくわかったよ。とにかく侑君に皆の案内をお願いしたから。」
「うん。」
「若干不満だろうけど我慢して。」
「うん。」

小さく頷く義妹の声に力はふと微笑む。後ろで2年仲間に呆れられている事はスルーだ。

「楽しんでおいで。」
「うん。」

もしかしたら義妹は電話の向こうで少々顔を赤くしているかもしれない。
想像すると可愛いなぁとつい力は思ってしまうが稲荷崎勢がいる前で萌ポイントを晒すのもどうかと思う。

「じゃあもう切るから。今度は定時連絡忘れるなよ。」
「うん。」
「いい子だね。じゃあ後で。」
「うん。ほなね。」

プツンと通話が切れた。力はふぅと息をついてふと振り返る。
木下、成田以下2年仲間が苦笑してこちらを見ていた。

「美沙さんやっちまったのか。」

成田が言った。

「稲荷崎の2年も京都に来てたらしい。」
「木下が立てたフラグを縁下妹が回収した訳だな。」
「おいやめろ田中、俺が悪いみたいじゃんかっ。」
「心配すんな久志、どっちにしろ美沙は引き寄せるって。」
「それもそーか。」
「というか何で美沙さんはよくスマホを取られるんだろな、前は及川にやられただろ。」
「俺が聞きたいよ。」
「力も興味持たれてんじゃね。」
「やめろ西谷、冗談じゃない。」
「縁下よ、妹限定で暴走してちゃ大抵のやつは気にする。」
「田中お前もか。」

力が長いため息をついた所で少なくともと成田が話をまとめた。

「電話口でイチャイチャするの見せられるのは難儀だな。」

不本意に思って力はジトっと2年仲間を見るが木下以下4人共知らないふりをした。