My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
薄く、白に近い色合い。
爛れた皮膚を無理に引き伸ばしたような、胸の中心から四方に這っている歪な火傷跡。
初めて目にした、小さくとも確かに違和感を残す傷跡をじっと見ていれば、微かな鉄の音がした。
見れば強く拳を握っている雪の手。
同じに目は強く固く瞑られて、俺に見られることへの僅かな抗いのように見えた。
…んな拒絶すんなよ。
「………」
「───…っ?」
ゆっくりと胸の中心に顔を下ろす。
薄い火傷の上に、唇だけでそっと静かに触れた。
ぴくりと微かに雪の肌が震えを起こす。
「まだ痛むのか?」
「え…」
「火傷」
「…ううん」
顔を上げれば、固く瞑られていた目は俺を映し出していた。
優しく問いかければ、戸惑いながらもちゃんと応えてくる。
そうやってちゃんと目にして、認めてろよ。
みっともないもんじゃねぇんだから。
「これは?」
「え?…ああ…それは、イノセンスとは関係ないよ。前に遺跡の調査任務中に、落石があって。その時に」
火傷を指先で撫でるように感触を確かめていれば、光に照らされた雪の肌はよく見えた。
肌のきめ細かさや、皮膚の色、黒子の位置なんかも。
今まで隠され続けて見えなかったものがはっきりと見えることに、強い興味が向く。
鎖骨から脇から腹部まで隙間なく目を通していけば、幾つか小さな別の傷跡も見つけた。
火傷に比べりゃ随分と小さいもんだが、それでも傷は傷だ。
問えば同じに目で追った雪が、腰骨の上に掠める傷跡を見て首を横に振った。
ファインダーは教団の中で一番死亡率の高い職。
となれば怪我を負う確率も勿論高い。
俺との任務でも小さな怪我ならしょっちゅう負ってた雪だ。
跡が残り続ける程の傷を幾つも抱えてたって、可笑しくない。
俺の血がどこまで他人を癒せるのかわかんねぇが、肌に長年刻まれた傷は消せなかったのか。
残念には感じたが、予想以上にショックはなかった。
どの傷も雪が生きてきた証だ。
そう思えば、嫌なもんじゃない。