My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
…そういや前もこんなことあったか。
背後で雪の気配を感じ取りながら、ふと思い出す。
土砂降りの雨に降られて橋の下で雨宿りした時のこと。
濡れた体にくしゃみが止まらない雪を按じて、俺の上着に着替えさせた。
服を着替える間、見ないようにと背を向けてはいたが、今みたいに背後が気に掛かって気配を探っていた。
「………」
あの時と同じように探った気配は、意図的に殺しているような不自然なもの。
常人じゃ気付かないだろうが、雪の普段の気配を傍で察していた俺だからわかる。
「どうした」
「……ううん」
僅かな違和感に背を向けたまま問いかければ、一呼吸置いて静かな声が返された。
なんでもないと言うかのような返事だったが、微かに引っ掛かるもんがある。
気になりつい振り返りそうになって、動きを止めた。
雨宿りの時と同じだ。
勝手に女の肌を見るなんて、流石に駄───
「………」
いや、待て。
あの時と今とじゃ俺と雪の関係は変わった。
………別に駄目なことねぇだろ、雪の肌を見るなんざ。
そう思えばあっさりと首を後ろに捻ることができた。
見えたのは、ベッドの上に座り込んでいる雪の背中。
胸の跡を確認しているのか、首を下げて俯く姿はいつもより小さな背中に見えた。
…ほんの少し、哀しげな雰囲気を纏わせて。
「なんでもな───」
気付いたら無意識に体が動いていた。
雪の返事を聞き終える前に腰が浮いて、足が進み出て、小さな背中に手を伸ばす。
「っ?」
ベッドに片膝をついて乗り上げる。
後ろから伸ばした手で、服のボタンを留めようとしていた雪の手を止めた。
「ゆ、ユウっ?」
ぎょっと慌てた様子で振り返ろうとする。
前に、雪の背中に密着して覆い被った。