第4章 明かす罠は甘くて苦い果実
書類を捌いていると、サッと誰かが横目に視界を横切った。
もう早くに出るのかな……?
視線を移した先には、ちょうど扉を開けて出て行こうとするけんぬ。ことKENNさん。
外からは番号の入力が必要だけど、出るときはもう一つの出る人用の透明なドアから外に出る仕組み。
目が合って固まったわたしに、けんぬは笑顔で手を振る。
「仕事の都合でもう出るんだ。朝早いのにお疲れ様」
わざわざドアに掛けた手を離してこっちに歩いて来てくれる。
わわ……!朝から太陽より眩しいイケメン様の笑顔っ。
こっちに来ないでください!心臓が持ちません!!!
わたしの焦りなんて知られるわけもなく、けんぬは出ておいでよ。と声をかける。
そんな風斗君ボイスで言われたりしたら断れるはずもない。いえ、元より断る気なんてさらさらないですが。
気持ちとは裏腹に暴れて足を止めさせる心臓を押さえて、一歩一歩踏みしめるみたいに扉に向かう。
ガチャッ……。
鍵が開く音が重たい。駄目だ、けんぬみたいな王子様と窓ガラスを挟まずに接したらわたし…死ぬ。
もうわたしじゃなくなってしまう。
扉の前で立ち尽くしたわたしに扉の向こうでけんぬが言う。
『どうしたの?大丈夫?』
大丈夫なわけないでしょう。人気声優の中でも超イケメンを前にするんですよ?
心臓バクバクなんですから…!