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水蜜桃Series

第2章 水蜜桃の果実





ちょこまかちょこまかと青年の周りをぐるぐる回ったり跳ねてみたりして少女は頬を膨らます。大して無表情な青年は内心大きな溜息を吐きながら本の内容に既に集中できていない。容姿は愛らしく青年も少女を気に入っているのだが、前回で充分勉強しているのだ。この間のハロウィンパーティーでは全員がお祭り騒ぎで朝まで続き、飲みたいと言ったわけでもないのに次々注がれていくシャンパンやワイン。目の前のご馳走は確かに文句が言えないほどに美味だったのだが、面倒事に巻き込まれるのは確実だ。生憎盛り上げ役は一人や二人ではないし、悪乗りする者も多いだろう。中には無理矢理引き込まれた人間も少なくは無いだろうが、それでも楽しそうに笑っていた。決して楽しくなかったわけではない。しかし疲れるのだ。

ぴょんぴょんと跳ねて青年の手を片方小さな手で掴んで引っ張る。可愛らしい姿に思わず笑みが零れそうになって青年は必死に堪えた。あくまで行く意思がないと言う事を主張すれば、少女の双眸にじわりと涙が浮かんだ。ぎょっと目を見開く青年。柄にも無く慌てながら仕方ないともう一度溜息。精一杯の力で握っているだろう手を握り返して椅子から立てば、次にきょとんとしたのは少女だった。


「言っても無駄だな。仕方が無い、行くぞ。」
「…だいち、だいすき!」


ぐいっと涙を袖で拭ってにこにこ笑う少女。そんな少女の為なら面倒事の一つや二つどうでもいいかと考えてしまう辺り、青年も自ら気づかぬうちに少女にはかなり甘いらしい。


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