第4章 【オソレトフアン】
「英二、英語の宿題やってきたかよ?」
「ほえっ!?宿題なんてあったっけ!?」
「プリントあっただろー、お前、今日あたるぜ?」
「……やっべ、机に入れっぱじゃん!」
彼の声はちょっと高めのベイビーヴォイス。
甘えた感じで話すのは彼が5人兄弟の末っ子だから?
マジでー?、そう頭をかく菊丸くんに、私の見せてあげる?と女の子たちが争うように立候補する。
すると彼は、んー……とちょっと考えこむと、いーや、と輪から抜けて歩き出す。
え……?
菊丸くん……こっちに来る……?
菊丸くんが私の席のほうへと歩いてくるから、慌てて本に視線を戻す。
顔を隠すように立てた本を持つ手が震える。
彼が近づいてくるのに連れて、私の心臓も早くなる。
「オレ、不二の教室行ってくるー、教科書も忘れちゃったし、ついでにちょいちょいっとやってもらうわ」
菊丸くんは震える私の前を素通りすると、そう言ってプリントをひらひらさせながら教室を出て行った。
はあ……あんな事があった後だから、こんな普通のことでも平静を装えなくなっている……
心臓に悪いよ、全く……
廊下から聞こえる、ふぅーじぃー!!と不二くんに助けを求める菊丸くんの声と、バタバタと走る足音に耳を傾けながら、こっそりため息を付いた。