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【HQ】バンパネラカンタービレ【R18】

第43章 the night Walker.


【在りし日】



「いつか治します。私が」
「そんな日来ないよ」
諦めた、濡れた声で云う彼女に私はムキになる。

「何で決めちゃうんですか!」
「だってずっとそうだった」
「明日は変わるかもしれない」
「君は優しいなあ…何で?」


「ひ、ひっ、一人は寂しいから!」
云いながら手の甲の皮膚を噛みちぎる。
い、痛い!
末端の血管が勢いよく体液をあふれさす。
それを彼女に差し出す。

「私を憐れんでくれるんだね」
傷に口付ける様にして彼女は私の血をすする。

「だめですか?」
云う私に再び彼女の目から涙がこぼれた。
あれ?
もしかしてまずかった?

「ううん。こんなに温かいのは久しぶりだよ。ありがとう」
最後に止血になるから、と彼女が丹念に傷口を舐めてくれた。
確かに不思議と傷口は薄膜を作り血はもう出ていない。

「ありがとう。でも、私にはもう会わない方がいい」
「何故?私お医者か看護師になります。それであなたを救いたい」
私の言葉に彼女は優しく笑う。

「バンパネラは、血を餌にする。毎日毎日自分に血をくれる人と触れ合うんだ、そしたらさ、一一」

一一好きになってしまうよね。
それはいけないことですか?
聞く私に彼女は頷く。

「ただ一緒にいたかった。君は云ったね一人は寂しいと。そうだ、一人は寂しい。だから自分を愛して、血を分けてくれる人を好きになる。一緒にいたくなる」
私も元はバンパネラに魅入られた人間だった。
ただ毎日私を噛む彼と一緒にいたかった。
ただずっと、一緒にいたかっただけなんだ。

「血を吸われるのはただの給仕だよ。でもその愛を、血を口にするという口付けを受け入れるなら話しは別だ」
彼女は彼と同じバンパネラになった。
夜闇に沈む生き物に。

「彼は一人でいた時間が長すぎた。いつにか私を失う恐怖に、狂ってしまった」
狂気にとりつかれた彼は血を口にしなくなり、やがて弱り果て、人として死にたい、と一一陽光の中に身を投げ消えてしまった。

「私は一人だ」
雪の中で彼女は云う。
「だから私が」
「私は彼と同じにはなりたくない」
彼女は泣き伏す。

「一人でいいんだ。いつか彼のように日の光に打たれて死ぬんだ」
だから、私を探さないでくれ。
彼女は立ち上がる。
一一もし今度会ったら、離してあげられないよ。
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