第8章 おかげさま
今日は本当に気分が乗らない
あんなに安心して家を出たのに、静雄さんの言葉にまた気分を変えられる
“情緒不安定”
その言葉が今の私にぴったり
情けない…
でも昨日の感情とは明らかに違うところがある
臨也さんへの信頼が生まれた今、彼を愛おしいと思う気持ちは本物だと言い張れる
それは昨晩の行為があったからであり、臨也さんが本当の気持ちを打ち明けてくれたからであり…
『結局は体目当て』…
それは違う
気持ちを分かり合えたんだから
これでよかったんだと思う
首の痣も、臨也さんがくれた愛情の印
静雄さんにそれがわかるはずない
私たち2人にしかわからない。
…なんて考えながら仕事をしていた
~それは、学生が街を練り歩き始める放課後の時間帯~
「おねーさん」
ふと我に返り、下を向いていた頭をあげる
男子高校生…かな
金髪で、この近くにある来良の制服を身に纏い、
首元からは白いフードが覗いている
「あ、ごめんなさい」
私は少し微笑んで、
すぐに会計をと思いバーコードリーダーを手に取った
少年は商品をなにも持っていなくて、ただ私の顔をまじまじと見つめるだけ
「あの…どうされましたか?」
「お姉さん、元気ないでしょ?」
「…え?」
からかうようでもなく、むしろ心配してくれているような…
そんな口調だった
「あーこれは図星だ。どうですか、このあとゆっくりお茶でもしながら相談ターイムなんて!バイト何時に終わるんですか~?」
満面の笑みを浮かべる彼はとても可愛らしい顔立ちをしていて、危うく話の内容がナンパであることにも気付かないところだった
「えっと、今日は17時上がり…かな」
「もうすぐじゃないっすか~
帝人、今日はこのお姉さんとおデートするから杏里ちゃんよろしく!!」
彼の視線の先には、同じ来良の制服を着た2人の男女
みかど…あんり…
このときから脳裏にあることが浮かぶ
臨也さんが言っていたこと
『君には紹介したい奴がたくさんいる』
「もしかして、園原…杏里ちゃん、紀田正臣くん、あと…霧ヶ峰…
「竜ヶ峰です…」
「あ、ごめんなさい…」
困ったように笑う少年
そう、臨也さんが言っていた3人組だ…
「なんで俺たちのことを?」
「折原臨也さんが教えてくれたの」
「臨也…」
紀田くんの表情が一瞬曇るのがわかった