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夢と魔法と冒険と

第6章 小夜左文字


「姉様、あの鹿達も付喪神なの?」

壁飾りのトナカイやヘラジカの頭達が呑気なお喋りを始めたのを見て、小夜はこっそりと審神者に問うた。審神者は小さく笑うと声を潜めて答えた。

「うーんどうだろね〜、終わったら確かめに行こうか」

小夜がうん、と頷くと同時に前方の舞台の幕が上がる。何匹もの熊達が、異国の音楽を演奏し始めた。


舞台の幕が下り、客電が点いて観客達が続々退場していく。その中で小夜と審神者だけは鹿達の飾られている壁の前にやって来た。

「ねえ、あなた達も付喪神なの?」

そっと話しかける小夜の声に応えるものは何もない。ショーの間あんなにも生き生きと話していたというのに、今はピクリとも動かない。しばらく問いかけてみたものの一向に動き出す気配がなく、小夜は落胆した。人語を解する獣は管狐のこんのすけか、鳴狐のお供の狐くらいしか見たことがない。そもそも管狐や刀剣男士の半身を獣と呼んでいいのかは微妙なところではあるが、それを言うなら五虎退の虎や獅子王の鵺は話さない。ましてや壁飾りの剥製である。もし付喪神であるのならば、話を聞いて見たかった。しかし無常なもので、残された時間はない。係員に促され、小夜と審神者は退場した。




「姉様、やっぱりあの鹿の剥製の壁飾りって付喪神だよきっと」

このアトラクションは、施設の開園当初からあるそうだ。ならば付喪神化していてもおかしくない。そう結論づけて審神者に訴えるが、審神者はずっと笑ったままだった。あの鹿達は実際にはロボットなのだが、ここは夢と魔法の国である。小夜の中の夢を壊さぬように審神者はただ黙って笑っていた。
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