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夢と魔法と冒険と

第5章 燭台切光忠


気まずい沈黙が二人を包む。パレードが終わってから、二人共が一言も発していない。今は朝抽選で当てたショーの開場待ちで並んでいるが、やはり二人の間に会話はない。それでも審神者は何度か話しかけようとしたが、光忠が一度も視線を合わせようとしないので果たせずにいた。と、ドアが開き前回の観客達がゾロゾロと外へ出てきた。全員の退場が確認されたのであろう、入口を封鎖していた係員がドアを開け待っていた観客達を入場させる。光忠と審神者も人混みに流されるように劇場内へ足を踏み入れた。

基本的にこの施設では、抽選のあるショーは全席指定制を採っている。当選と同時に座席は指定されるので、入場したらまず自分の座席を探さなければならない。光忠と審神者の席は中央ブロック前から10列目の通路側から2席。このショーはクリスマスシーズンだけ内容が変わり、通常観客席には降りて来ないキャラクターも降りて来る。通路側の席は好ポジションなのだ。

「みなみ、君が通路側に座りなよ」

ようやく光忠から発せられた声に審神者は驚いた。席番号で大体の位置にあたりをつけていた審神者は、通路側を光忠に譲るつもりでいたのだ。せめて一つくらいは楽しい思い出をを残してほしくて。

「私はいいよ、光忠が座って。クリスマスバージョンは普段舞台から降りて来ないキャラクターも降りて来るからきっと楽しいよ」

「だったら尚更君が座るべきだ。僕は君の楽しそうな顔がみたいんだよ」

どうやらこれは本心らしい。今まで目すら合わせなかったのを詫びるように呟いた。 垂れ耳と垂れ尻尾の幻が見えるようである。審神者はニヤけるのを全力で嚙み潰し、出来る限り平静を保って返事を返す。

「わかった。じゃあ遠慮なく通路側に座らせてもらうね。ありがとう光忠」

顔を見合わせようやく笑みを浮かべる二人。開演を報せるブザーと共に、どこからか季節外れの桜の花びらが一枚、静かに舞い降りた。


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