第9章 へし切長谷部
格納庫劇場という意味の名がついたそこは、1日に4〜5回時間を決めてショーを開催する。演目はおよそ10年前後で変わり、現在はプロジェクションマッピングを駆使したミュージカルだ。座席は抽選ではなく先着順なので、ある程度時間に余裕を持って並ばなければならない。1回目の公演を観るべく訪れた審神者と長谷部は、全体を見渡せる中央寄りの後方の席を案内された。審神者は既に何度も観ているので知っているが、前方の席は水しぶきや煙がかかることがあるので後方でもさほど悪い席ではない。
「後ろ、か……」
不満気なのを隠そうともせずに長谷部は舞台を睨む。
「どうしたの?国重、何かあった?」
「こういう場所では普通前の方がいい席なのだろう?」
「ああ、そういうこと。それがそうでもないのよね。初めて観るなら全体を見渡せる後ろの方がオススメなのよ」
事も無げに言う審神者の言葉に、長谷部は驚愕した。調べてきた事と、違う…?
「そういうものなのか……?」
「そういうものなのよ、事、これに限っては、ね」
流石に元年パスホルダー、審神者の方に一日の長がある。さほど悪い席ではないことが判明すると、長谷部は安堵して座席に座りなおした。
ベルが鳴り、客電が落ちる。間も無くショーは開演を迎える。