第6章 ボクのキモチ 【大倶利伽羅】
「……なんだよ。そんなの、当たり前じゃねえか」
宙で一度その動きを止めた指先を、俺は確かな意思を持って動かし想いを伝える。くしゃりと美桜の頭を撫で、その美しい漆黒の髪に軽く唇を落とした。
「ねぇ、大倶利伽羅。もう、お仕事の時間は…… 終わりでしょ、ね……?」
美桜の甘く心地好い声が、ふわりと落ちてくる。
覗き込むように見詰める美桜の瞳が、真っ直ぐに俺を捉えゆるりと揺れ、肩口からさらりと流れる美しい黒髪が、斜めに射し込む夕陽に染まりながら頬を撫で上げ、俺の顔に陰を作っていく。
軽く瞼を閉じて、美桜のもたらす侵食を甘んじて受けるように身を任せる。
「……大倶利伽羅……?」
再度、問いかけるように呼ばれた己が名に軽い眩暈を覚えながらも、その気だるさがとろりと甘過ぎて、理性が麻痺し本能を呼び覚ましていく。
「ちっ、仕方ねえな。ったく」
悪態を、ひとつ。
解ってはいるが、それは些細な餓鬼の反抗という名の意地にそっくりであって。
そんな無駄な抵抗も、照れ隠しには唯一の手段。
そして俺はその問いを肯定するかのように、そっと美桜の身体を引き寄せて、彼女の陽に染まる艶やかな唇を深く深く受け入れていく。
ゆるく閉ざした視界の端では、
茜に輝く空が世界を優しく包み込んだ―――――
「ぷっ…… 大倶利伽羅の顔ったら、真っ赤」
「っ、うるせえな。 ……夕陽の所為だって、ばーか」
やっぱり俺も、まだまだらしい。
END