第6章 ボクのキモチ 【大倶利伽羅】
「ねぇ、主。最近どぉう?」
「え~、そうねぇ… 可も無く、不可も無くって感じ?」
「あはは、やっぱりねぇ~」
朗らかに響く、女達(?)の声。
それは平穏なひと時を知らせる、空高い秋の午後。
明け開かれた窓からは清々しい風がふわりと流れ込み、さわさわと木々の擦れる葉の音が、穏やかに鼓膜に囁き過ぎて行く―――って、そんな場合じゃなく。
「やっぱりねぇ~じゃねえ。ったく、此処は何時から井戸端会議所になったんだっ」
俺は怒鳴り声と共に思いっきり扉を開けると、目の前で茶を啜る二人を睨み付けた。
動きが止まったように見えたのは一瞬で、やつらは再び、何事も無かったかのように手と口を動かし始めた。
「オイ、おまえら…… 無視するんじゃね―――ッ!!」
「あ~ら、倶利伽羅。そんなに心配しなくても、ちゃ~んとアンタの分の茶請けは残してあるってば」
「そうそう、大倶利伽羅の好きな芋羊羹!」
青筋立てて剥きになっている自分が馬鹿らしくなってしまう程、飄々としているこいつらって一体何だ?
一番真っ当なのは、誰が見ても間違いなく俺であるはずなのに。
俺は盛大な溜め息をひとつ、これでもかって言う位に吐いてやった。
が、それも何の効力も成さんのだが……
「そんな事より次郎…… お前ら第三部隊、呼び出しかかってるぞ。さっきチビ達が酷く慌ててたが、こんな所で茶なんか啜ってていいのか?」
「あら、やだ。そうだった、そうだった。……あ、帰ってくるまでソレ、食べちゃわないでよぉ~」
次郎は最後にひとつ、芋羊羹を口に頬張ると、手をひらひらさせながら緊迫感の微塵も見せずに部屋を出て行った。
それを笑顔で送り出している美桜の横顔にちらりと視線をやってから、俺は抱えてきた書類を乱暴に机上に投げ置いた。
そして椅子を引きドスンと深く腰を下ろすと、次郎とこいつの所為で溜まりに溜まった書類の山に目を通し始めた。