第8章 想っているから。
「あっちいく〜!」
「スイカーー!」
「はいはい。」
元気な子供と腕を引かれる母親の姿。
町内会の夏祭りでは、毎年見る光景…
その後を、不慣れな下駄でついていく。
【カタン、カタン…】
【カタン、カタン…】
行き交う下駄の音が心地よい。
「はい、ハズレ〜!残念賞だ!」
「なんだよ、ちっちぇ!」
廉がビニール袋に入れて手渡した小さなスイカに、今さっきスイカ割りを外した男の子が文句を言う。
「ねぇ僕?そういうことはね、あそこにいるオジさんに言わなきゃだめだよ?」
廉の困り顔を見て、男の子の顔を覗き込んで、そう言ってあげる。
「うん、わかった!」
「助かったわ、あのガキ態度悪くてさ。」
立ち去る男の子の背中を見ながらそう言って苦笑する廉は、夏祭りなのに、黒Tシャツにベージュの短パン姿だ。
「浴衣着ればいいのに。」
「誰かさんが着付けようとすっからヤダ。」
なんだよ…
やってもらえるんだから、いいじゃんか。
「……そんなことより、笠松先輩は?一緒じゃねぇの…?」
!
「……………」
「…好きなんじゃねぇーの?めぐみさんよ〜」
「うざい。」
私の肩に腕をまわして、からかってくる廉を睨みつける。
「…俺はいいよ。そのままのめぐみで。」
5歳くらいの女の子に、スイカの入ったビニール袋を手渡し、廉は私を振り返った。
っ…/
普段は見せない、真剣な表情だ。
その後…
「……夏祭り、楽しもうぜ。」
ニコッと笑ったその顔が、
ほんの少しだけ、寂しさをまとっているように感じたのは、
…気のせいだろうか。